鶴づれ

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繊細な花


 いつもの散歩のコースには、3階建ての小洒落たビルがある。誰かがワークショップや展覧会を開いたり、ライブをしたりするような場所だ。

 今日はそのガラスの壁に、『繊細な花展』と書かれたポスターが貼られている。生け花かと思ったけれど、立体切り絵作家の個展のようだ。よく見れば、ポスターに写っている蓮の花は、本物ではなく切り絵。触れただけで壊れてしまいそうなほど、繊細な模様だ。

 吸い込まれるように、ビルに足を踏み入れた。

 中には、作品が収められたガラスケースが点々と並んでいる。桜にユリ、コスモス、椿。その花びらに切り取られた、繊細で美しい模様を主張することなく、ただそこに花が存在している。切り絵は、こんなに静かなものなのだろうか。

 ぽつりぽつりと歩いていると、ポスターになっていた蓮の花を見つけた。

 水面を模した水色の上に、ただ白い蓮の花が静かにあった。ポスターで見た時は切り絵が主役だと思ったのに、ここでは蓮の花の一部でしかない。細かな花びらの花模様は、蓮の花の輪郭にゆったりと溶けて表に出ない。あるのは、一輪の蓮だけ。

 題は、『蓮』とだけあった。確かに、これは蓮以外の何ものでもないだろう。

6/25/2023, 12:44:16 PM