とわ

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別れ際に




「じゃあね、」

その声はなんの未練もなさそうに響いて、トドメを刺すようにヒールの足音が私を追い越した。

「あ…。」
「…なに?」
「いや…。」

何か言いたかった。言いたくて、声を発した。振り返りもしないで返事をした彼女の香りが遅れて漂って、サンダルウッドの香りが鼻をくすぐる。
何も言えなかった。彼女の足音は清々しそうに去っていった。
そうだ。いつだって、彼女の方が大人びていたんだった。
サンダルウッドの香水の印象だけが、なんだか苦く残った。

9/28/2023, 12:51:15 PM