あいもやでー

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「瞳をとじて」

「ねえ、瞳をとじてみて」

そういって彼はわたしの目元に手を出す。わたしは何も言わずに瞳をとじる。
それから彼に連れられてどこかへ連れて行かれた。

「ねえ、瞳をあけてみて」

彼の言葉に応じてわたしは瞳をあける。
そうすると、そこに広がっていたのは美しい街並みだった。高い建物に並木、それから街を歩く住民たち。

「きみにこの景色を見て欲しかったんだ。これからぼくたちだけでこの領地を治めるんだよ」

そう言われてはっとする。そう。わたしと彼は伯爵家にいるんだと。
わたしは元々平民の出身だ。伯爵家となんて関わりはないし、あってはなるないものだ。
だが、彼はわたしにも平等に接してくれた。
今思うと、彼はわたしの容姿が気に入っていたのかもしれない。長くてクルクルと巻かれているようなブロンドの髪に、青く澄んだ瞳。彼はその時にもう、わたしの事が好きになっていたのだろうか。

「ねえ、愛してるよ。本当に。愛してる」

そんな事ばかり言われていると照れてしまいそうだ。わたしは思わず顔を隠す。
彼はそんなわたしを愛でながら言う。

「ぼくだけを見てね。きみの瞳はぼくを見る為にあるんだから。他は見る必要がないから、ぼくを見る時だけ瞳をあけてね」

おかしい事を言っているようだが、案外彼は本気のようだ。わたしはパニックになり、思わず拒否してしまった。
彼はわたしを部屋に軟禁した。
わたしはひとりで部屋にずっといる。もう何もしたい事はないし、できる事もない。
扉が開く音がした。
それからわたしはしばらく彼に愛でられ、彼はわたしを見ながら言う。

「ほら、もうぼくは戻るから。瞳をとじて。愛しい人」

1/23/2025, 11:13:40 AM