美佐野

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(二次創作)(もっと知りたい)

 例えるならばそれは、優れた絵画を目にし感銘の息を吐くようなもの。
 あるいはそれは、出来の悪い脚本の物語に眉根を顰めるようなもの。
 全ては受け身で、与えられたものを見て、楽しむ。それで十分であった。そもそもは意思も何もない身に偶発的に芽生えた自我において、先輩でもある人間たちの望みや欲望を見るだけでも満たされていたのだ。
ーー魔王に完膚なきまでに拒まれるまでは。
 紆余曲折あって魔王への臣従を決めてからの日々は、存外悪くなかった。勇者の生き残りたるシャルムはからかい甲斐があるし、未熟な魔王種サティウスは秘めたる何かを抱えていそうだ。無機物に意思が宿るという点において自身と似通っているモーヴにも興味は尽きない。また、魔王に付き従う者以外、有象無象の人間たちは、アクオラに願いを託していなくても自在に動き回り様々な機微が垣間見える。
 だが、最たるものはやはりーーキルザリークなのだ。
「これは我が主、今日は何処へおでかけですか」
「我が主、甘いものがお好きなのですか」
 答えが与えられるかは気まぐれで、うるさいの一言で終わる時もある。それでもアクラオは気にしない。それよりも、もっと知りたいという気持ちが募ることが楽しくて、面白くて、果てがない。
 刃の魔王キルザリークーーおおよその束縛から自由である御方。
「我が主、貴女はお酒は嗜まれないのでしたか」
「?」
 なぜそれを尋ねたのかと、首を傾げるキルザリークは無邪気で、いとけない幼な子のようにも見える。かと思えば、魔王らしく凄惨な笑みを浮かべている日もある。そしてコンカツ導師の指摘する大いなる魂の飢え。
「ああ、我が主。どうぞ私めに、貴女のことをもっと教えてくださいませね?」
 しかしキルザリークの姿はなく、どうやら先に行ったよう。置いていかれたアクラオは、わざとらしく肩をすくめた。


3/13/2024, 12:06:24 PM