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 目を覚ます。
 窓を開ける。
 ベランダのパセリに水を遣る。
 太陽は真上にある。
 掃除機をかける。
 パンを焼く。
 バターを買いに出掛ける。
 電車に乗る。
 鍵を開ける。
 パンはすっかり冷めている。
 洗剤を入れる。
 洗濯機を回す。
 書類を片す。
 ピアノに向かう。
 鍵盤を叩く。
 きみは隣にいる。
 鍵盤を叩く。
 きみの表情を想い描く。
 黒鍵を叩く。
 白鍵に触れる。
 ………
 浴槽を洗う。
 鍋いっぱいの水を沸騰させる。
 レトルトカレーを放る。
 洗濯物を取り込む。
 ガスの元栓を閉める。
 床に放られたアルバル。
 前の本棚に詰め込む。
 しかし溢れる。
 床に放られた広辞苑。
 後ろの本棚に詰め込む。
 それでも溢れる。
 …………
 ヘッドフォンを着ける。
 ケーブルを接続する。
 すこし変わった音が鳴る。
 空気を吐く。
 鍵盤を叩く。
 パセリの香りが漂う。
 鍵盤を叩く。
 棚から落ちた本の音がする。
 鍵盤を叩く。
 白鍵を叩く。
 黒鍵を叩く。
 楽譜は要らない。
 そんなもの必要ない。
 全て頭に残っているから。
 夜の静寂が襲い掛かる。
 怖い、と思う。
 きみがいてくれたらいいのに、と思う。
 きみが隣にいた日を思い出す。
 きみの隣に在れた日を、想う。
 きみとの思い出を噛み締めながら。
 ぼくの中できみを感じながら。

 ぼくは、きみの居ない今を、生きている。


▶過ぎた日を想う #25

10/7/2023, 1:17:19 AM