物語のはじまり
書いたような気がするお題なんだよなあ、と過去の書いたものを検索したが、ヒットしない。
既視感が強いのだ。「物語」で書いたんかな。自分で書いたというのによく覚えていない。
こんな風に記憶の拗れではじまるのが、物語である。偶然性の多寡による、作者の頭の中で繰り広げられた戦争の残火。
燻った火が何かの拍子で燃え広がれば、それは全力で燃え広がらねばなるまいて。
自然的欲求の産物。大半は逃げ惑う人々。
しかし、立ち向かわなければならない、消火活動中みたいなもの。何かに突き動かされ、よく分からないまま外出する義務を負う。
消防車の酷似したキャンピングカーで一人旅。
走る所はいつも戦争跡地。誰かが戦い、誰かが散った。誰が悪かった、誰が助かった。想像するしか宛がない。
がらんと鎖国した土地が広がっている。干乾びた肉眼では見えないが、腐葉土になる前の腐敗ガスのような、熱量の持ったくすぶりを感じ取ると、赤色の極彩色を纏った車を停める。
ホースを持って人力スプリンクラー。
想像しろ。ここには燃え盛る燎原の炎。広がっている。拡大している。車と同じく、赤い赤い……。
炎の中にポッと隠れ潜む、塹壕跡。
あったら嵌まらないよう気をつけるが、なんせ太いホースから出る水の勢いに、身が持ってかれる。
ふとした拍子にすってんころりん。こんなところに陥没穴が。車輪の轍のちょうど中間だったのか、と思っていたら激突。20メートル深の穴の底。クラクラ、頭がクラクラする。
地面に手を押して、押し付け、すると硬い物。
手のひらサイズの石ころで、虫めがねで確認すると、キラリとする、みっけた。
ダイヤモンドの輝きを見つけたら、いつも彼は月夜に掲げる。
「手放したくない」と思ったのが始まりだ。
救援の手綱代わりのホースが垂れている。消防車用のホースだから、先から滝のように水が流れ落としてくれるが、一向に冷たい湖になってくれない。土がすべてを吸収しているのだろう。
が、彼は気にしなかった。たとえこの世がミイラになろうとも、この輝きは決して衰える様子はないのだと、眼差しはしっかりと見上げていた。
石を通して、月が見え、……クレーターを写し取る。
トパーズよ、月になれ。宝石は浮かび、彼も浮かぶ。ついでに消火活動中のキャンピングカーも浮かび、世界に天国の雨を降らした。
4/19/2025, 9:20:27 AM