"流れ星に願いを"
ダンッ
不意に窓ガラスが叩かれる音が響いた。
嫌な予感で身の毛がよだつのを感じ、咄嗟に音がした処置室へ入り明かりを点けると、窓辺に窓の外を見上げるハナがいた。窓の外を見ると、誰もいない。
とりあえずハナを窓から離そうとハナに近付く。
「おい、危ねぇから離れ──」
そう言いかけると、ハナが立ち上がって前足を出して窓ガラスを叩く。
ダンッ
あの音だ。
あの音の正体は、ハナが窓ガラスを叩く音だった。
「お、脅かすなよ……」
急に緊張感から解放されて膝から崩れ落ちそうになるが、なんとか踏みとどまる。
窓に近付き「何に興奮してんだ」とハナの視線を辿る。
キラリ、と夜空を駆けるものが見えた。それに合わせて、ダンッ、とハナが窓を叩く音が聞こえた。
──なるほど、これ《流れ星》に反応してたのか。
空が晴れているおかげで、流れ星がよく見える。
ただ、今夜は流星群があるとは聞いていない。
ならこれは流星群ではなく、数個の星が流れるちょっとした天体ショーという事か。
そっと両手を合わせると指を絡ませ、祈るように顔を伏せて目を閉じる。
何かに願うものは無い。自分で行動し叶えるものばかり。
ただ、これだけは祈り願う。
──皆が、ハナが、これから先も平和に過ごせますように。
そう呟くと、ダンッ、とハナがまた窓を叩く音がした。
緩慢な動きで顔を上げ、目を開ける。
「さ、晩飯の時間だぞ」
そう言ってハナを抱き上げると「みゃあ」と一声上げた。
そのまま窓を離れて処置室の明かりを消し、夕食を摂りに廊下に出た。
4/25/2024, 2:20:26 PM