色標本、博物標本、乾燥標本、鉱物標本。
標本といっても、まぁまぁ、色々あるものです。
今回は 「秘密の標本」がお題とのことなので、
不思議で厨二でファンタジーな標本と、
それを集める、機械生命体のおはなし。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこでは世界と世界と繋ぐ航路を運行したり、
航路上の事故や違反を取り締まったり、
また、滅んだ世界に通じる航路を封鎖したり、
滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが、他の世界で悪さをしないように回収したり。
色々な仕事を、しておったのでした。
で、そんな世界線管理局には、チートアイテムやマジックアイテムを回収して収蔵して、それから運用したり保管したりする専門の部署が、
ちゃんと、複数の収蔵庫と、それから優秀な局員たちと一緒に、存在しておるのですが。
お題の「秘密の標本」の所有者は、なんと法務部。
半永久的な寿命を持つ、機械生命体です。
自分自身も十分チートな機能を持つ機械生命体は、ビジネスネームをヒバリといいました。
「ご紹介にあずかりました、はい、ワタシは登録名をヒバリと申します」
くるりんぱ。
人間のように滑らかな所作で、人間と同じように制服を着用した機械生命体、ヒバリは、
執事か専属道化っぽく、うやうやしく挨拶です。
「ワタシが製造されたのは、既に滅んだ世界。
当時の王家の財宝を、収集し、増やし、守る。
それがワタシの存在意義だったのですが、
ワタシの世界が滅んでしまい、ワタシ自身がチートアイテム認定されてしまいまして、
そしてこのとおり、管理局に職を得たのです」
ワタシの秘密の標本を、ご覧に入れましょう。
さぁどうぞ、どうぞ。こちらです。
機械生命体のヒバリが、空間作成のチートアイテムで作られた保存空間に触れ、ロックを解除します。
空間の中は、あっちに金銀、こっちに宝石、
あらゆる場所に、財宝が転がっています。
「もちろん、ワタシの秘密の標本は、これら金銀財宝ではありません。私の標本は、この先です」
ワタシの秘密の標本を、ご覧に入れましょう。
さぁどうぞ、どうぞ。こちらです。
機械生命体のヒバリが、魔法鉱石の通路を進み、神秘結晶の橋を渡って、巨大な水晶のフェンスゲートの鍵をガチャン!落としますと、
「ようこそ、ワタシの秘密の標本庫へ」
太古の魔法を秘めた銃、滅亡世界の叡智を記す本、
大事な儀式のために作られた霊的な剣等々、等々。
ありとあらゆる、既に滅んでしまった世界から収集された高価値な武器が、
ところ狭しと、標本よろしく、専用ケースに大事に収納されて、展示されておったのでした。
「はぁ……はァ……ハァッ!
なんと恐ろしく、なんと退廃的で、
なにより、ハァハァ、ハァハァ!なんと美しいッ」
機械生命体のヒバリ、機械のくせしてヘンタイ的なムーブでもって、標本たちを称賛します。
「いえいえ。ワタシは創造主がプログラムしたプロンプトに従って、あらゆる世界の強力な兵器を標本化しているだけです。ヘンタイなど、そんな」
ハァハァ、はぁはぁ。
機械生命体のヒバリ、機械のくせして目がキマってます。完全に周囲の標本に酔っています。
「ご覧ください。これは某世界の亡国が、平行世界ふたつを犠牲に鍛え上げた儀礼の剣。
ハァ……美しい、これを作り上げるために、人間はどれだけ多くの同胞の……」
どれだけ多くの同胞の、未来と、可能性と、選択肢とを、犠牲にしたことでしょう。
そう言おうとしたヒバリが、一点を凝視して、ピシ。
フリーズして、再起動して、ブーストします。
「だれかがワタシの兵器標本を持ち出しました。
おのれ、ゆるさぬ、ユルさぬ、ユルシマセンヨ。
これが一兆歩一京歩、譲りに譲ったとしても、
ワタシの大事な標本庫から、美しく尊い標本たちを、無断で、許可無く、申請も契約も対価も無く!!
外界の空気に触れさせるなどッッ!!」
おおおのれぇぇぇぇぇ!!
標本庫に、ヒバリの大音量が響きます。
ヒバリの秘密の標本庫は、
間違いなく秘密の標本庫なのですが、
保管されている兵器標本があんまり優秀過ぎるので、同僚の潜入任務、戦闘任務、その他任務に使われてしまうのです。
「フゥォオオオオオオオオオオオオ!!!」
秘密の標本のおはなしでした。 おしまい。
11/3/2025, 9:57:37 AM