第1節 これはハッピーエンドである

Open App

ぐちゃり、と不愉快な音が耳をくすぐった。
生暖かな、真っ当に生きていれば関わることのなかったであろう感触が自身の手を汚す。

「ごめんね、手伝わせちゃって。」
「……本当は、1人でやるべきなのに。」

「…………いや、いいんだ。コレが終わったら、…そうだな。2人で温泉にでも行こうよ。」

「あはは。入れてもらえるかな。こんななのに。」

まぁ、彼女がそういうのも分かる。
今自分たちの両手は真っ赤だし、生臭い。あからさまに何かをしでかしたような風貌をしていて、快く受け入れてもらえるなんてとても想像がつかない。

「絵の具ですって言ったら、ワンチャン見逃してもらえるかもよ。ほら、美術専攻だし。」

「美術専攻はウソじゃん。」

「ごめん、調子乗った。」

絵の具で見逃してもらえるといいねー、なんて軽口を叩き合いながら、手はひたすらに解剖を進めた。

ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。

ごきんっ。

びしゃ。

「うえっ、口に入った!やべやべ」

「水もなんも持ってきてないよー。」

「だと思った。いいよ、あとちょっとだし。」

あとちょっとで解剖も終わるし、
あとちょっとで全てが終わるんだから、今更鉄の風味を気にする意味もない。

ようやく解剖を終わらせ、全てのパーツを袋に詰める。
そして、2人。
絵の具みたいに真っ赤に染まった手を繋ぎながら、海を眺めた。

袋の中に存在する親友も、
親友を裏切ってコイツと付き合った俺も、
親友が好きだったコイツも。
今から3人で、ガキだった頃と同じようにみんなで、海に飛び込むんだ。

「懐かしいな、あの後ってスイカ割りしたんだっけ?」

「したね。スイカ粉々でさぁ。結局もいっこ切り直したよね」

「マジでばーちゃんには世話になったよなぁ、ウワ、お礼くらい言っとけばよかった。」

「あはは!今更。」

あの頃とはもう違う。
スイカ割りなんて出来ないし、きっと浮かぶこともない。

もうすぐ日が昇る。

袋の中身をこぼさないように握り直して、それから。


「なぁ、お前ら。」




「今夜は、特別な夜にしような!」



ちゃぷん、と。
3人分、水面が揺れた。


1/21/2024, 2:17:43 PM