『何もいらない』
欲しいものが何なのか、自分でも分からない。愛なのか、誰かに認められることなのか、それとも、誰かの温もりに触れて初めてかたちになる「生きている」という実感なのか。
口にしてみても、どれもしっくりこない。そうじゃない、もっと奥の、言葉になる前にふっと消えてしまうような何かだ。
友人と笑い合ったあの瞬間に、それはあったかもしれない。家族の声が部屋いっぱいに満ちていたあの夜に、確かに息をしていたかもしれない。
でも、気がつけばもう手の届かないところにある。
満たされた気持ちというのは、どうしてこんなにも消えやすいのだろう。砂を握るみたいに、強く閉じるほど指の隙間からこぼれていく。だから人は、また次を求める。次の笑顔、次の食卓、次の夜。
それが欲深さなのか、それとも単純に、生きることへの誠実さなのか、私にはまだ分からない。
ただ一つ確かなのは、「何もいらない」と思えたあの瞬間もまた、きっとそういう何かだったということだ。
4/21/2026, 8:11:00 AM