アリス

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【遠くの街へ】

「あ、なんとか動きそう!ありがとうございます!」
ぷすんぷすん……と微かに聞こえるエンジン音に、心から嬉しそうな顔をして君は言った。
「よかった、気をつけてね。」

10日ほど前に、小さなレシプロ機に乗って真っ暗な夜の窓から白一色みたいなこの部屋へ飛び込んできた手のひらほどの青い少年。
堕ちたところがふわふわな布団の上で、脚が折れてしまったのだ。
ここにベッドを置いたのは別に僕じゃないけど、なんだか悪いし、その飛行機を直してあげたのだ。

「このあと、どこに行くの?」
「うーん、ずっと、ずうっと遠くの街です。」
「友達にでも会いに行く途中だったのかい?」
「いいえ。僕はあなたにも会いに来たんですよ。
あなたみたいな人を幸せにするために。」

「…そっか。」
びっくりした。言われてみれば確かに、この子が来てから話し相手ができて楽しかったな……。
不意に寂しくなってしまうが、どこかへ行くと言うのならその道中の無事を祈るべきだろう。
「…気をつけてね。」

はい、と返事をすると彼は来たときと同じように、今度は三日月の浮かぶ朝焼けの、青と白の混ざり合うようなところへ飛び立って行った。


その日、丘の上にある天文台では流星群に置いていかれたような、大きな尾を引く青い流れ星が発見されたという。

2/28/2024, 10:29:12 AM