サイコロ

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―この場所で―

この場所で、僕は今日も立っている。
駅前の、あの自動販売機の横。
待ち合わせはいつもそこだった。 

君はだいたい遅れるから、
僕は少し早めに来て
飲み物を一本買って待つのが習慣だった。 

今日も同じ。

炭酸のボタンを押して、
ぬるくなりかけた缶を手に持つ。
開けないまま。

君が来たら、
「それ、もう炭酸抜けてるよ」って笑うはずだから。
人が通り過ぎていく。 

足音。
笑い声。
改札の音。

世界は、何も変わっていない。

変わったのは、
君が来なくなったことだけ。

——そう、言われた。
ちゃんと説明も受けた。 

数字も、時間も、
もう動かないことも。

僕はそのとき、泣かなかった。
泣いたら、本当に終わる気がしたから。

だから今も、
終わっていない。

この場所で待っていれば、
まだ「約束の途中」だ。

遅れているだけ。
きっとそう。

最近は、
君の顔を思い出すのに時間がかかる。
声も、少し遠い。
代わりに、
「来ない」という事実だけが、
やけにはっきりしてきた。

それでも足はここに向かう。

来ないと分かっているのに、
来ないことを確認しに来るみたいに。

缶はまだ開けていない。
炭酸は、きっともう抜けている。
それでも僕は、
そっと缶を握り直す。

指先の感覚が、少し鈍い。

この場所で、僕は少しずつ削れていく。
悲しみはもう鋭くない。
ただ、薄く、
毎日同じところを擦られている。

いつか本当に、
君の顔も、

声も、

何も思い出せなくなったら。

そのとき、僕はどうするんだろう。

待つ理由がなくなったら。

今日も、
君は来ない。


―もう。君が来ないなら僕が迎えに行ってあげる。


虚ろ虚ろに歩き出し、
駅の改札を乗り越える。


待っててね。今迎えに行くから。


周りの声がよく聞こえない。
向こう側から来る電車を見つめる。


きっと、
君は天国にはいない。

だって、僕にうそをついたから。

きっと、
君はしごくにいる。


だから、むかえにいく。


君はさびしがりやさんだから、


君はぼくがいないとだめなんでしょ。


まってて、いまからそっちにいくから。


じごくは君ひとりだったらかなしいよね。


でもぼくといっしょならたのしいよ


でんしゃがきた。
ぼくはせんろにむかってはしる。


















ぼくね
君がいないとたのしくない






ぼくやさしいから
君がやくそくやぶったのはゆるしてあげる






だいすきだよ







いま
むかえにいくからね







そしたら

また

やくそくのばしょつくろ







やっと

また

君にあえる







またせちゃってごめんね














だいす――――――――――







題名:【炭酸が抜ける前に、】

2/11/2026, 2:02:30 PM