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《桜散る》

 桜が散る景色が好き。

 そう、何とも普遍的なことを桜の木を見上げながら言えば、隣の君は「フーン」と何ともつまらなそうに相槌した。僕はいつもつまらないことしか言えないなあ、とがっくり肩を落とせば、君はそんな僕を置きざりにして不意に走り出した。
 そして、まるで踊ってるみたいに飛んだり跳ねたりする足取りで、空を泳ぐ花びらを片っ端から掴み取っていく。
 やがて君は、息を弾ませて僕の前へと戻ってきた。固く握り締められる拳の中には、桜の残骸がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
 君は如何にもびっくり箱を差し出すような悪戯な笑みを浮かべて、僕の頭上へとその手を突きだしてくる。あ、くす玉の方か。
 次の瞬間。ほどかれた手の中から、押し潰されたピンク色が零れ落ちていく。ひらひらと優雅に、というよりはしとしと雨粒みたいに呆気のない、速い速度で足元に広がっていった。
 君は愉快げに笑いながら、僕の髪に引っ掛かる花びらの欠片をぽんぽんと払った。自分で仕掛けたくせに、全く世話が焼けるなあとでも言いたげに。

「これが、好きなんだねぇ」

 うん、そうだよ。好きなんだ。
 君がいる景色なら、僕はなんだっていいんだと思う。
 もし僕が「海辺の景色が好き」とでも言えば、きっと君は砂浜の砂を掴んで、僕の頭に降らせるんだろうな。
 桜が散り始めたばかりなのに、僕はそんな愛しい夏の予感を、もう感じ始めていた。

4/17/2026, 11:17:13 AM