「君の生まれた街に行こう」
「私の生まれた街は、ここからずっと北に行った寒い寒いところです」
「雪は降るのかい」
「ええ。深く深く降り積もります。夜は、しんと静まり返り、雪がキラキラと光る美しい景色が見られます」
「是非見てみたいな」
「けれど、私の故郷に行くのは骨が折れるんです」
「どうして?」
「昔は違ったけど、今はもう電車も通っていないし、街へつながる道路もまともな状態で残ってるものはほとんど無いんです」
「ずいぶんと山奥なようだね」
「いいえ。私の生まれた街は、とても栄えた港町でした。でも、街は、滅んでしまった。爆弾が落ちて、あっという間に人々は炭になり、土地は汚染されてしまった。人が住める場所じゃ、なくなってしまった。禁足地となって久しいのです」
「なんてことだ……けれど、そんなニュースは聞いたことがないな」
「ええ。遥か遠い土地の出来事ですから。私の故郷は、遠くに行ってしまった」
「どういうこと?」
「記憶の彼方。歴史の彼方。ずっと遠く、手も届かない場所に行ってしまった。追いやられてしまった。そういうことです」
2/28/2023, 10:42:39 PM