『何気ないふり』
何気ないふりを続けて、はや三日。
……正直、限界を迎えそうだ。
「おはよう、今日も良い天気ね」
「……おはよう母さん。う、うん。ソウダネ」
なんで母さんを含む身近な人が人外化してんの??
○○○
予兆は何もなかった。
怪しい魔導書を開くとか、隕石が降ってくるとか、高いところから落ちて頭を打つとか、そんな事は一切無かった。
——気づいたら、周囲の人間達が人外になっていた。
「へぇ。それでなんかまいった顔してんの?」
「そりゃあそうでしょ。いきなり人間から魔族みたいな角とか動物みたいな尻尾とか、恐竜みたいな翼とか生えてたら、何事かと思うじゃん」
「それでも何も反応しなかった訳?」
「そりゃあ仕方なくない? だってみんな当たり前ですが何か? みたいな顔してるんだよ? 僕の頭が可笑しくなったのかなって思うじゃん」
「あはは~」
「笑い事じゃないんだってー!」
教室の放課後。
一つの机を挟んだ反対側に椅子に行儀悪く腰掛けた人物。
バンダナで頭と顔を隠している幼馴染がニヤッと笑う。
コイツ、ファンタジーに出てくるシーフみたいなんだよな。
「俺さぁ、一つだけ、心当たりあるんだよねぇ~」
「えっ、なになに!?」
思わぬ進展を期待して身を乗り出す。
幼馴染はそんな僕の顔を押しのけると、バンダナに手を掛けた。
「俺のバンダナの下、見たことある?」
「ない。だって、いつも付けてんじゃん。水泳のときも」
「だよね~」
筋金入りのバンダナマニアなのだ、と思っていたけど……違うの?
幼馴染が、するりとバンダナを解く。
そして僕は、大きく目を見開いた。
大っきな三毛猫柄の猫耳と、猫目石のような瞳。
「……ね、こ?」
「あのさぁ。周りが人外になったんじゃ無くてさぁ、人外だった周りの誤魔化しが“効かなくなった”だけなんじゃねって」
「……え、まって。それ、どういう……?」
「だってここ、魔族の街じゃんね?」
「え」
おわり
3/31/2026, 12:44:54 AM