「誰かー!いないのー!?」
声が出ているはずなのに、聞こえない。
ずっとずっと歩いている。
あたりは真っ暗闇で何も見えない。だいぶ歩いたが、突き当りにもたどり着かない。何もないこの場所はブラックホールの中みたいだ。
ずっと歩いているのに疲労を感じない。足が地につく感触もなくて、フワフワと漂っているみたいだ。
暗い暗い。ずっと恐怖が付き纏ってくる。だけど、叫んだり、泣いたり、パニックにならず、どこか冷静でいられる自分がいた。
何十分何時間何日何ヶ月何年…
悪夢が終わらない。明けない夜はないというけれど、それは嘘ではないのか。明けない夜は本当にあるのではないか。
いつしか希望を何処かにおいてきてしまったようだ。
ただ歩く。意味なく歩く。
すると、遠くから光が見えてきた。それはだんだん近づいてくる。
アタタカイ、ハヤク、アソコニイキタイ
「駄目よ戻ってきて」
イカナキャ
「向こうに行くのはまだ早いわ、還ってきなさい」
ヤダ、イクノ、ワタシノ、イバショハ、ムコウ
「約束したじゃない、ねぇ」
アァ、ヤット、ヤット、コレタ
.......
ピーーッ
機械の耳に残るような不快な高音が鳴り響く。
力がスーッと抜けていき、その場に立っていられず、床に崩れ落ちる。
仕事を抜け出してきて急いでやって来た彼女の母が声をあげて泣き、彼女の父が妻を抱き寄せる。
急のことだったからまだ事実が受け止められない。
それからはあっという間だった。
葬式の時に見た彼女は幸せそうな顔を浮かべていた。
4/30/2024, 10:49:26 AM