たなか。

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【あなたがいたから】

あなたがいたからだ。あなたがいたから、泣けなかった。
「泣けばいいのに。」
「泣くわけないじゃん。」
本当は泣いてやりたかった。泣き喚いて声枯らして目腫らしてやりたかった。でも、そんな面あなたにはとても見せられない。私が泣いたらどんな顔をする? みんなにどうやって示せばいい。
「ハーネスだ。」
「私らのリーダー。」
「お前がいるから俺ら大丈夫だな!」
「本当にすごいと思うの!」
期待の言葉はもう飽きた。やめてよ、そんな。聞きたくない。あなたがいるときは私と二人で完璧だ。背負わせてごめん。だからこそ、泣かないよ。泣けないよ。背負わせておいて泣くなんて卑怯。
「勝手に背負って馬鹿みたい。」
冷たい缶のココアを頬に当てられ言葉を投げられる。缶を涙が伝う。泣いてたんだ。
「何が分かんの。」
「何も。お前が泣いてることしか分かんない。」
ココアを強制的に受け取らされて立ち尽くす。顔をすくめると肩を少し叩かれた。
「お疲れ様の証。」
なんで、こんなに泣いているんだろう。たかが、学園祭の出し物じゃないか。みんなが頑張って完成させた結果じゃないか。最優秀賞にはなれずに優秀賞だった。二人でいたら完璧なんてそんなことない。私は結局何も出来なかった。あなたがいたからだ。あなたがいたからみんなは私を責めないでいてくれたんだきっと。
「みんなー、泣き虫いいんちょ見つけたー。」
でかい声でクラスメイトを呼ぶ。その声に反応して人がどんどんこちらへやって来る。バレないようにと手でゴシゴシと顔を吹く。
「お疲れ様、委員長。」
「私、楽しかったよ!」
「ちゃんと道標だった。」
「やっぱりみんなですごかった!」
クラスのみんなに囲まれる。なんでこんなに優しくしてくれるんだろ。
「あ、お前らいいんちょ泣かせた。」
冷静な声で淡々と告げられるので笑ってしまう。
「なんだ、笑ってんじゃん。いいんちょ、すげかったよ。」
「私らの出番終わっちゃったけどまだ他残ってるし戻ろっか。」
ハーネスなんだ。リーダーだから。私がいるから大丈夫。みんなすごくて一番だから。最高の思い出になったんだと思う。

6/20/2023, 12:34:49 PM