黄身

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私は、鏡に映るわたしを愛せない。
完璧でないアシンメトリーな目、頬を踊るそばかす、上がらない睫毛、かさついたくちびる、嫌な色の瞳。どれもが世間の定める「美」からずれている。

自分の理想像を鏡に向かって語りかければ、願いが叶うらしいと、聞いたことがある。人間の脳は単純だから、自分の姿を見て偽りの褒め言葉を浴びせ続ければ、その勘違いを現実にしてくれるのだ、と。村の娘はいつだって、そういうウンザリするようなおとぎ話に敏感だ。
へぇ、そうなの。
すごいじゃない。
あなたなら大丈夫よ、きっと。
女の会話に必要なのは、テンプレートみっつだけ。
毎日同じような噂話を同じ場所で同じ作業を繰り返しながら、だなんて呆れちゃう。私はあなたたちみたいにはならないんだから。
だから、私は今日も暗示をかける。

「わたしは醜いシンデレラ。わたしはちいさな農村の娘。」

鏡の前で口角を引き上げたわたしはきっと、世界の誰よりかわいい娘。


No.14【鏡】

8/18/2024, 3:47:09 PM