「終点」
「終点までですね。良い旅を」
南極にある地球ステーションから宇宙鉄道に乗る。銀河鉄道を延長して宇宙の果てまで行けるそうだ。宇宙に果てなんてあるのか?という疑問はスルーして、全財産を注ぎ込んだ特等の個室に入る。最後尾の車両に3つの個室の中でも一番後ろの部屋だ。
ゆっくりと見えるだけで本当は猛スピードで地球を離れる。地球ステーションが南極にあるのは、どの国にも属さないからだ。ステーションをめぐってきな臭い噂はあったが、金に物を言わせた世界的な富豪が南極に決めた。たとえ核戦争が起こっても南極だけは国際法上守られると決まっているからだ。
帰る頃には地球はどうなっているだろうか。いや、寿命が尽きるまでに帰れるのか?できればこの旅の途中で死にたいものだ。オプションで申し込んだブラックホール埋葬がこの旅の目的なのだから。
宇宙鉄道の旅の途中で死んだ場合、遺体は荼毘に付され、最寄りのブラックホールに散骨される。オプションのブラックホール埋葬では、遺体は特殊なカプセルに入れられブラックホールに吸い込まれる。
ブラックホールの向こう側なんてワクワクするじゃない?カプセルは半永久的に遺体を保存できる。未知の天体にたどり着いて再び生命を吹き込まれるかもしれない。あるいは押しつぶされて跡形もなく消え去るのか。宇宙を旅することができるようになってもブラックホールは謎のままだ。
トントンとドアをノックする音がする。
「乗車券を拝見します」
終点と書かれた乗車券を差し出す。
「終点までの所要時間は無限でございます。いつまでも旅をお楽しみくださいませ」
さあ、無限という名の有限の旅、楽しむぞ!
8/10/2024, 12:15:55 PM