なおみ すずや

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この家の中は安全だ。
偶に冷たいシャワーを浴びたり、夜の闇の中で過ごさなくてはいけないけれど。
それでも、外の風は雨粒はやってこない。
こちらを奇異の目で見る視線も、自責の声と混じり合うひそひそとした声も、焼け爛れるような己への失望も。
この家の中には、無い。

「……今回のバイトも飛んだの?」
いつも通りの気だるげな声が出迎える。
声の主は玄関先を濡らしながら入ってきた僕を見やると、くたびれたタオルを持ってこちらへと来た。声と違わず気だるげな両の黒瞳は、奥の方に微かな心配を翳らせている。
「ん、腕のこと言われてさぁ」
雨で張り付いたとは言え、不自然な程にぼこぼことした形を浮かべる左袖をついと見る。
「あー?それでまたキレちった訳ね」
僕の頭をわしわしと拭きながら、はは、と彼は笑った。
ばしばしと激しい雨粒が窓を叩く音。それに交じって不定期にぴちょんと音が混じるのは、築30年は超えるこの格安アパートならではだ。
「うん、よし着替えといで」
「え?風呂先はいるよ」
「ガス止まったよ午前中に」
「まじかぁ·····」





無責任に互いの未来を食いつぶしながら今を生きようねという甘美な囁き。
【お題更新のため時間切れ】

7/30/2023, 11:11:14 AM