『夜の海』
その日だけは、私のまわりに花々が咲き誇る。
ここ最近、太陽がまた一段と眩しく私を照りつけてくる。照らされた私はキラキラと波間を輝かせ、サザン、ザザンと音をたてながらのんびりと高い空と眩い太陽を眺めて過ごす。
私は、そんなこの季節が一等好きだ。
太陽が空高く登り始めた頃、ちらほらと人間達が私の元へとやってきた。頭上の太陽に負けないほど、その顔は皆が皆全員キラキラと輝いている。そんな彼らの様子がどうにも微笑ましく、嬉しくなって、思わず私は普段より少し高めに波を起こした。キャーっと人間達がはしゃぐ声が聞こえる。私はますます楽しくなって、波をザザーン!と、思い切り浜辺へ打ち付けて笑うのが、この頃の定番だ。
この季節の昼間は、一年で一番騒がしい。
多くの人間が、涼を求めて私の元を訪れるからだ。普段、太陽と二人きりで過ごしている私としては沢山のお客様が来たようで自然とワクワクしてしまう。思わずおもてなしにも力が入ってしまうというものだ。波が多少高くなってしまうのは、勘弁してもらいたい。
それでも、太陽が沈み闇が空を覆うころにはあれほどいたお客様達は誰も居なくなってしまう。昼間、キャッキャと笑い声に溢れていたはずの砂浜はザザン、ザザンと私の波の音が響くばかり。
…孤独を強く感じるこの季節の夜が、私は少しだけ苦手だった。
だが、今夜だけは特別だ。
本来であれば誰も居ないはずの真っ暗な砂浜には、所狭しと人間達が座りこんでいる。暗くてまともな明かりは無いというのに、皆その瞳には昼間のようにキラキラとした光が浮かんでいた。空気も、静けさなんて何処にもない。フワフワとそのまま夜空に昇っていってしまいそうな程、浮き足立っている。
ヒュ~~~………ドーン!!!
大きな音がしたかと思うと、私の頭上に大きな光の花が咲いていた。途端、わぁ!っと感嘆の声を上げる人間達。音はその後も続けてドンドンと響き渡り、その度に暗い夜空が光で溢れるようだった。
ドーンと音が鳴る度に、空に大輪の花が咲く。
花が咲けば、人間達の笑顔もまた次々と咲いていく。
この特別な夜は、孤独なはずの砂浜を、あっという間に笑顔の花畑へと変えてしまうのだ。
この瞬間がたまらなく愛おしい。真っ暗闇な私の周りで、沢山の花が咲く。ひとりぼっちの私を照らしてくれる。
───寂しがり屋のこの夜の海だって笑顔になれる。眩しい花畑に、囲まれて
8/16/2024, 5:34:20 AM