【星空】
カタカタと古びた音を立てながら回転する映写機が、天井に星空を映し出している。白銀の星々が煌めくその光景は、私の一番のお気に入りだった。
大昔の人間は、本物の星空を毎日のように見上げていたらしい。地上の汚染が悪化し、地底都市が築かれるようになった現代となっては、もはやおとぎ話にしか聞こえないけれど。
「またここにいたんですか」
呆れたような声が鼓膜を揺らした。振り返れば白衣を着た君が腕を組んで立っている。
「ちょっと来てください。気になる反応が出てて」
「はいはい、今行くね」
休憩室のソファから勢いよく立ち上がる。周囲からは馬鹿にしかされなかった私のラボに、望んで訪れてくれたたった一人の後輩。汚染物質の除去なんて誰もが諦めた未来絵図を、キラキラとした目で語ってくれた子。後指を指されながら一人きりで研究を進めてきた私にとって、それがどれほどの救いだったか、君は知らないかもしれないけれど。
(いつか私が本物の星空を見る時には、君にも隣にいてほしいな)
きっとこんな紛い物の空よりも、その光景は遥かに美しい。心の中で夢想しながら、私は映写機のスイッチをパチリと落とした。
7/5/2023, 11:49:32 AM