ㅤ正午。
ㅤそこには先客がいた。でっぷり太った三毛猫。
ㅤ大抵の人は、講義が終わると連れ立って食堂へ行く。けれど私は、講堂から少し離れた、木の陰のベンチがお気に入りだった。誰とも顔を合わさなければ、誰とも話さなくて済む。
ㅤ猫は目を閉じていた。顔の真ん中に二つ、すうっと線が引かれているみたいだ。眠っているのか休憩しているだけなのか、私にはわからない。
ㅤ風そよぐベンチのど真ん中に、置物のように鎮座する黒と茶と白の猫餅。どうしようかと逡巡していると、黒茶の耳がピクピクと動き、猫がぱちりと瞳を開いた。私の方をじとりと見る。
ㅤこの時間の所有権を主張したいけど、ナワバリの闖入者は私だったのかも知れない。貫禄ある彼女とやり合う気にはなれなかった。次の講義に遅れても嫌だし。
ㅤ他の場所を探そうと歩き出しかけた時、
「にゃあ」
ㅤ短く鳴いた猫が身体を起こした。数歩遠ざかり、ベンチの端でまたしゃがみ込む。もしかして、場所を空けてくれたのかな……?
「ありがとう」
ㅤお礼を言って日陰に入り猫と並んで腰掛けると、お弁当箱を取り出す。
ㅤ猫はじーっと、私の手元を見ていた。
『日陰』
1/29/2025, 11:04:59 AM