真澄ねむ

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 木枯らしが辺りに強く吹きつける晩のことだった。借りていた本に夢中になりすぎて、トルデニーニャが眠気を感じて、本を閉じた頃にはすっかり真夜中に近い時間になってしまっていた。この時間なら寝床の中には既にリヴァルシュタインが就寝しているだろう。そろそろ寝ようと思ったトルデニーニャは物音を立てないように寝床に向かった。
「……トーマ?」
 寝床では眠っているはずのリヴァルシュタインが起きていた。彼は近づいてくる彼女の気配を感じて、確かめるように声に出した。彼の呼びかけはとても頼りなげで胡乱としている。
「リヴァ、どうかしたの?」
 返事をしながらトルデニーニャは彼の傍に近寄った。その顔を覗き込んで、彼女はぎょっと目を大きく見開いた。彼は熟睡しているときに叩き起こされたときと同じようなぼーっとした表情をして、両目から大粒の涙をこぼしていた。よくわからないけれど、夢見が悪かったのだろうか。
「どうしたの? 眠れないの?」
 彼は胡乱な表情を彼女に向けるだけで、何も言わなかった。本当に起きているのか、実のところ眠っているのか判別がつかない。トルデニーニャは彼の腕を掴んだ。ぐいぐいと自分の方へと引っ張りながら、彼女は彼の顔を覗き込んだ。自分の姿が瞳に彼の映っているけれど、彼の瞳には違うものが映っているのだろう。
「ねえったら」
 彼女はもう一度声をかけたが、返事が返ってくる気配がなかった。このままだと埒が明かない。仕方がないので、掴んでいた彼の腕を離すと、彼女は自分の寝床にもぐり込む。
「……君がいなくなる夢を見た……」
 足音もなくいつの間にかトルデニーニャの側に立っていた彼が、ぽつりとこぼした。彼女はごろりと寝返りを打つと、体を起こした。
 もう一度、リヴァルシュタインの腕を掴むと、自分の方へと引き寄せた。引っ張られてバランスを崩した彼が、片膝を彼女の寝台についた。自分とほぼ同じくらいの目線になった彼を、トルデニーニャはしっかりと抱きしめた。
「大丈夫。わたしはここにいるよ」
 彼から息苦しくなるほど強く抱きしめ返された。彼女の腕の中で彼が小刻みに震え始める。その背中をゆっくりとさすりながら、彼女は言った。
「だから、泣かないで」
 月明かりが二人を優しく照らしていた。

12/2/2023, 4:01:34 PM