必死に絞った声を、「真面目に歌え」と叱られてから人前では歌えなくなった。けれど、特に絶望することもなかった。優れたミュージシャンの曲は人々に勇気を与え、希望を教え、時には心の支えとなるが、素人の歌には価値などない。カラオケボックスで陶酔しながら歌う無意味な時間。恋人にオリジナル曲を贈る人間の言い尽くせない不気味さ。本来、才能のない人間に音楽を奏でる資格などなく、オーディエンスに徹することが役目なのである。歌える歌えないではなく、その立場にさえないのだから、自分は大人しく、ただ素晴らしい音楽に耳を澄ませていれば良い。
一度でも本音を口にしてしまえばきっと正気ではいられなくなるだろうから、またヘッドホンの爆音で耳を塞いだ。
5/24/2025, 2:50:56 PM