夢路 泡ノ介

Open App

ごまかすのは得意だ。
どんな時だって、ギリギリだろうがポーカーフェイスにすぐなれる。
嘘偽り上等さ。死ぬまで貫けられる。
今日だって友達とカフェでこんな話をしたんだ。人間は嘘をつく時に、顔のどこかを無意識に動かしてしまう、って。
目は口ほどに物を言うとは聞く。顔のパーツに関してなら、目元や鼻をひくつかせたり、じっと見つめるなどがある。
素直な奴は笑いを堪えきれない。嘘へのちょっとした罪悪感や、好奇心から来たりするし。
そうして俺がいろんな発想を言葉で並べてると、友達は突然こう言い出したんだ。
「幽霊はどうなんだろう、あいつら感情あるのかな」
微かに間をおいて、どうだろうな、と返した。
霊的には、持っている念の色次第で感情が異なると耳にしたことがある。特に赤色は攻撃的な意志を表すのだそうだ。だから絶対に離れろ、と言われてる。
過去にちょろっと読んだ本の内容を脳裏に浮かべつつ、
「幽霊が嘘をついてくるなんて話は聞いたことがない」
と、前例なしを挙げて現実ワードで返した。
「ははっ、そうだよね。僕らは見えないから証明しようがないもん。でもあったら面白いと思うんだよな」
「まあな」
少し楽しげな彼に短く相槌を打った。
まあ、俺もそういうのに偏見はないし乗れるから別にいいけど。そう言われると、見てみたさはちょっとだけある。
関心がうつった俺は冷めないうちにと、机に置かれたコーヒーカップを手にとり、縁に唇をつけた。
ふと友達を見る。
友達はプレートの上にあるチョコレートケーキをフォークで食べている。昔っから甘党だ。そういうのにはすぐ夢中になる。
そして何となく、後方に視線を移した。
テーブル席で一人の男が背筋を伸ばして座っている。
黒い背広姿だ。リーマンだろう。仕事の合間の一休みといったところか。
だけどブリーフケースが見当たらない。手ぶらでこのカフェに来たのかよ。真面目なのか自由なのか分からない人だ。
そう思っていたら、男がゆっくりと俺に振り向いた。
血色のない肌だった。
両目が真っ黒に染まっている。
大口を開けて笑顔を見せてきた。
「......確かに思うわ」
俺は平然と言葉を付け足して、コーヒーを啜った。

【何でもないフリ】

12/11/2023, 11:10:44 AM