好きな色(招かざる色)
「………色は白が一番無難じゃない?」
―――テーブルの上にある沢山のメーカーのカタログ。
そのカタログを囲んで家族がそれぞれに、自分の好みの冷蔵庫を選んでいる。
「うーん、落ち着いたブラックがいいんじゃないか?」
「俺は赤がいい。映えるし、存在感あるし」
「何言ってるの、緑がいいよ。キッチンに緑最適! 癒やしの色の象徴」
「わたしピンク! ピンク一択!」
………。なにこの謎の会議?
そろそろ冷えが甘くなってきたのはどうやら扉の締まり具合が怪しくなってきたかららしく、これは夏前に買い替えなければと家電屋でカタログを片っ端から貰ってきたのだが。
え? 色?
今日日機能じゃなくて色? 見かけなの?
いやわたしも冒頭で白とか言ったけど、それはあくまで白がオーソドックスだからそう言ったまでで、深い意味は何もないんだけど。
「色はまあ置いといて、ほら便利な機能とか………」
「えー何で黒なの!? うちモダンじゃないから、黒は似合わない! 論外!」
「そう言うピンクって何だよ!? キッチンにピンクである意味がわからねえ!」
「赤は駄目だよ。風水的に水場に赤は縁起悪い」
「緑は無理だ。野菜を思い出す」
………いや、だから何で色の話してんの。
「ねえ、今ハイテクでスマホと連動して冷蔵庫の中見れるんだって!」
「確かに赤はないな」
「はあ!? ピンクだろどう考えても」
「黒は気分滅入るよー!」
「緑キツイって」
「ねえ、最近の急速冷凍凄いよ! 消臭機能も充実してる」
黒!
赤!
緑!
ピンク!
………………。
なるほど、機能なんて二の次で見た目最重要かい。
普段料理なんて全くしない人間の意見を聞こうとしたわたしが馬鹿だったね。はい。
「色は白にします」
えーーー!?
―――一斉に上がった不満の声に、わたしはぎろりと睨みを効かす。
「じゃあ毎日ご飯作ってくれるのね?」
ありがたいわあ、と喜ぶと皆示し合わせたように口を噤んだ。
そう、事実上母の完全勝利。 ―――のはずだったのだが。
………どうしてこうなった?
家にやってきた、真新しい冷蔵庫を見てわたしは愕然とする。
冷蔵室、黒。
冷凍室、赤。
野菜室、緑。
取っ手、ピンク。
「白の在庫がなかったからって、普通こうなる?」
どんなカスタムしたらこうなんの。
………というか、白の要素却下って地味に舐めてる。
「いやあ、良いのが届いたねえ」
「案外イケてる」
「カラフルでいいじゃない!」
「おう、洒落てる洒落てる」
新しい冷蔵庫に湧く家族どもに、これでもかと睨みを効かすと彼らは散り散りに逃げて行った。
わたしは冷蔵庫を前に大きな溜息を吐く。
………まあ、ここまできてしまっては仕方がない。
わたしは覚悟を決めると、その真新しいカラフル極まりない冷蔵庫を開け放った。
END.
6/22/2024, 7:40:00 AM