あなたが、あの人のことを褒めた夜、私は眠れませんでした。
あなたが褒めるのもよくわかります。
あの人の美しさは決して、顔立ちやスタイルの良さだけではありませんでした。
あの人の価値観、自由な精神があの人を輝かせているのです。
あなたがその輝きに目を奪われるのは、当然のことのように思えます。なぜなら、あなたとあの人はよく似ているからです。あなた方は精神の自由さにおいて同じ光を放っているかのようです。私には到底辿り着けず、だからこそ焦がれてやまない光です。
魂の共鳴、というものがあるのだとしたら、きっとあなた方にそれは起こりうる、そんなことさえ思うほどです。
あなたの隣にいることは、私の誇りでした。指に光るシンプルなリングは、愛の証であるとともに、平凡な私にささやかな優越感さえもたらすものでした。
ですがあの日、あなたの瞳にあの人の影が宿ってから、私は平穏ではいられなくなりました。
心の奥が焼けつくように疼きます。焦燥感を煽るように胸を打ち続ける熱い鼓動は息苦しく、私から眠りを遠ざけました。
あなたは何も変わらないでいてくれました。
あなたは私の話に耳を傾け、手を握り優しく微笑んでくれます。
ですがその瞳の奥で見ているのはあの人でした。私の言葉を聞きながら、あなたはあの人の為の言葉を探しています。
いっそのこと、あなたとあの人に憎悪を向けることができたならば良かったのにと思います。
私の中に小さな子供がいて、暴れているのです。
四六時中私だけを見て、私以外の誰も褒めないで、言葉を尽くして私だけを愛してと叫ぶ子供です。
自分へ向けられるはずの愛を失う恐怖に怯える子供を、私は必死に宥めました。
私がここに来たのは終わらせるためです。
嫉妬に支配され、心が蝕まれていくことに、疲れ切ってしまいました。
終わらせて自由になりたいのです、あなた方のように。
羽などなくとも、私はきっと自由になれるはずです。
空を掴むように身を投げ出す。それだけが私の中で確かなことでした。
そしてその時こそ、私はきっと自分の光を見いだすことが出来ると思うのです。
今、私を現実に繋ぎ止めるのは、手すりに触れた指先の冷たい感触だけです。
窓の下を見ることはしませんでした。
目を閉じれば、心地よい冷たい風が私の額を撫でていきます。
自由になれる、その熱い鼓動だけが私を突き動かしていました。
7/31/2025, 7:36:14 AM