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まだ、見ぬ世界へ
さあ、次の冒険の舞台はどこだ!

子供の頃、そんなナレーションの声を受けて新しいステージへ向かう、アニメの主人公たちが羨ましかった。
 みんなで足並みを揃え、大きく一歩を踏み出す力強い姿勢。画面いっぱいに広がる、未知の大陸、澄み渡った空、波をうねらす大海原。
それに圧倒されず、全ての謎に突き進んでいく後ろ姿をに、私もこんな体験をしてみたい。そう、息巻いたものだった。
 ところが、大人になると俄然臆病になってしまうもので、ちゃんばらごっこを楽しんだ、あの頃の威勢はどこにやら。剣を放り投げて、盾を二つ構える小心者になってしまった。
 盾を二つ構えているのだから、もちろん歩みも遅い。腰に負担をかけないよう姿勢を低くし、亀足、すり足、忍び足。他人の目から逃れるために、平身低頭。いざとなれば、盾を背負って甲羅の代わり。――まさしく、亀である。
 ちなみに、私は小さい頃から亀に――ではなくて、蛙に似ていると言われていた。母によく、あの緑色の宇宙人軍曹さんに似ていると言われていたのだ。
 今考えると素直に喜べない発言だが、某軍曹さんは、宇宙の彼方から遥々地球までやって来た。そこで、一人の学生と出会い、居そろうしながら地域に溶け込んでいく。唯一無二の地球人の親友さえ、手に入れた。
 今思い返してみると、さすがは、軍曹さん!である。宇宙を隔てて交流するのは、並大抵なことではない。そして、私はその軍曹さんに似ていたらしい……子供の頃だが。
 今の私には、軍人になる気力もないし、宇宙旅行をする気もない。武器を手に、戦うこともないだろう。
 でも、少なくとも私の手には、いや背には、甲羅がある。無鉄砲で、宇宙に飛び立つほどのやんちゃは鳴りを潜め、代わりに防具を手に入れた。
 防具は自分の身を守るもの。だから、それはそれでいい。だって、誰も傷つけないし、疲れたときには、甲羅の中で身を潜められる。
 それに、亀は意外と、噛む力が強いのだ。ここぞという時の食いつきは、誰にも負けない。岩でも噛んで、生き延びる。亀にはそういう、しぶとさがあるのだ。
 私は、蛙から亀になれて良かったかもしれない。
とろくても、いつかは絶対、新大陸にたどり着ける。

だから今日も安心して、ゆっくり亀足、のろま足。
愛しい甲羅を背負って、自分のペースで歩いて行こう。

6/28/2025, 3:43:53 AM