君は
旅立ちの朝と同じ顔で
最期の夜の前に立っていた
足元まで迫りくる闇が嘘のように
空は青く晴れ渡って
君は胸を張って 背筋をピンと伸ばして
暗いところが何もないみたいに
「怖くはないの?」
その言葉は言わずに飲みこんだ
一緒に歩いてきた私が知ってる
君の弱さと 君の強さを
共に旅してきた帽子を手に取り
世界に最後の挨拶をして
君は踏みだした
きっと振り返らずに行くだろう
君ならきっと大丈夫だ――
君は――
足音が近づいてくる
顔をあげると君が駆け寄ってきて
私をぎゅっと抱きしめた
「雨が降りそうだったから」
ずっと大切にしていた帽子を
ためらいなく私にかぶせて
君は青空みたいな顔で笑った
私は君の最後の鼓動を聞いた
君は
今度こそ振り返らずに
夜闇のなかへ消えていった
雨なんか降ってない
空はあいかわらず青く晴れ渡って
ただ、私の目から涙があふれて
止まらないだけだ
夜が明けるまで
子どもみたいに泣きじゃくって
泣いて 泣いて 疲れて眠って
まだ腫れた目のまま起きあがる
そして帽子を深くかぶり直した
私は
旅立ちの朝に歩きだした
いつか胸を張って 背筋をピンと伸ばして
君の前に立てるように
青く晴れ渡る空の下を
「旅路の果てに」
2/1/2024, 9:59:54 AM