薄墨

Open App

初めて絡めた指先が、体温でとろけてしまうくらいに、温かかったことを覚えている。
躊躇いがちに、するりと埋めあった隙間が、やけに心地よくて気恥ずかしかった。

いつもポケットに突っ込んでいた手を、この日ばかりは引っ込めることもできずに、手持ち無沙汰に外に出しっぱなしだった。
出しっぱなしにしているとなんだか指先の方から、世の中に染まってしまいそうで、すぐに冷たくなっていく手が、この日だけは外に出しっぱなしでも温かかった。

このことを口に出すか迷って横顔を見た。
横顔が特に美人でかっこいいことは知っていたけど、こんなに可愛いとは知らなかった。

それから、凍える指先を怖いとは思わなくなった。
君が来てくれたら、このまま手からこの世界に染まってしまうかも、という恐れも消えてしまうと分かっていたから。
手をポケットに突っ込む癖は、いくら君に注意されても結局、治らなかったけど。

それでも、君に救われたのは事実だ。
凍える指先を君と繋ぐことができるということ。
それが救いであり、今の幸せだということが、嬉しい。

12/9/2025, 10:41:35 PM