夜宵

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賞賛、喝采、歓喜、涙、感情の昂り、注目、人気…
浴びるように感じる達成感と高揚。相手が私に注目するこの優越感。溢れ返るほどの感情が私を飲み込む。そして一拍の後、名を呼び、呼ばれ、求められる事で満たされる承認欲求。今目の前にいるのは私だけ、注目されるのも私だけ。比較もされず、貶されることもない。

あぁ、この事実のなんと幸福なことだろう。素晴らしい事だろう。

笑顔を振り撒き、いい子を演じ、適度に嘘を交えて相手の機嫌を取り生きて行く。そんな私でも幸福の2文字を実感することになろうとは。こんな1人のための演奏に、今までで一番の音色を奏で、今までで一番の笑顔を見せることになろうとは…。

演奏が終わる。手が止まる。音が止む。相手の口が開く。

比較されないというのはこれ程までに清々しいものだったか。
相手に謙遜し、自分を下にしながら相手の美点を探すことはそれ程苦痛だったのだろうか。よもや自分は、毎回誰とも分からぬ相手に劣等感でも抱いていたのだろうか。それとも、ただ1人だけ、誰と比べるでもなく、己の感想をつらつらと述べ続ける者に希望を見たのだろうか。

ただひとつわかることは、今日の演奏は何時もより幾分も気分が良かったということだけである。

7/13/2023, 5:18:05 PM