君とならうまくやれると思ったんだけどな。
まさか、警察の犬だったとは。
よくも俺を騙し通せたもんだ。
これでも俺は鼻が利くんだぜ。
怪しい匂いが少しでもすれば、絶対に気付けたはずなのに、いったいどんな手で匂いを消したんだ?
ファブリーズ?消臭力?
どっちにしろ、君もプロだったんだな。
まんまと裏をかかれたぜ。
野良犬の俺には、君達の世界は眩しすぎる。
ニッポンの平和を守るために、日々訓練してるんだろ。
カッコ良すぎるよ。
俺なんか、今日の飯にも困って、あの店の裏のゴミ箱から、食いもんを盗む毎日だ。
そんな俺を逮捕しに来たんだろ。
…え?違う?
俺に協力して欲しいって?
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確かに僕は特殊な訓練を受けているが、それで俊敏さや持久力は身に付いても、嗅覚はやっぱり生まれついてのものが大きくてな。
人間よりは遥かに鼻が利くが、まあ、その程度だ。
そこで、君の噂を聞いた。
この街一番の嗅覚を持ってるって。
美味い残飯を嗅ぎ分ける能力もピカイチだそうじゃないか。
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何だかほのかに虚しくなってきたが、気のせいか?
俺は褒められて認められてるんだよな?
まあいいや。で、いったい俺に何をしろと?
え?麻薬捜査?
この街の反社組織が保管している薬物の在り処を探るの?
そんなの簡単じゃん。
俺、いつもその匂いを嗅いで、「臭いな」って息を止めてるんだ。
その場所を教えりゃいいのね?
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やっぱり、思った通りだ。
いや、それ以上の嗅覚を持ってる。
君となら絶対うまくやれると思って、こうして君に近付いたんだ。
ただの、薄汚い野良犬のフリをしてな。
すっかり騙されたろ。
僕の潜入捜査能力も見事なもんだな。
臭い残飯も我慢して食った。
屋根のないところで寝て、トイレじゃないところでウンチをするなんて、ホントにもう二度とゴメンだぜ。
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君、本性出したら、あんまり友達いなそうだね。
…で?俺が協力したら、何してくれんの?
何かご褒美とか、ないの?
俺もこの道のプロだからな。安い報酬じゃ動かないぜ。
せめて、高級ドッグフードの一皿くらい貰わんとな。
え?プレミアムドッグフード?
それって美味いの?
警察犬御用達?
よし、じゃあ早速行こうか。
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ところで、組織のアジトを見つけたら、僕達の素性がバレて、奴らに襲われるかもしれない。
奴らは、拳銃という物騒なものを所持している可能性があるんだ。
大丈夫かい?
僕は訓練を受けているから平気だが、野良犬の君にはリスクが高いかもしれないね。
それでもやってくれるかい?
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おいおい、俺をナメてもらっちゃ困るぜ。
俺はこの道のプロだって言ってんだろ。
え?何のプロかって?
まあ…アウトドア…サバイバル…要するに、野良犬のプロだよ。
ここまで生き残ってきたんだ。
この体でな。
拳銃なんて出てきたら、俺が噛み砕いてやるよ。
心配すんな。
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…分かった。
僕も、確保の訓練は受けているが、人間と争うのは訳が違うからな。
その辺は、君の方が頼りになるかもしれん。
頼もしいよ。警察犬になって欲しいくらいだ。
よし、じゃあ行こうか。
君の言う場所は、この先の商店街を抜けたところだな。
君が先頭に立って案内してくれ。
僕は目立たないようについてゆくよ。
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「ねえママ、見て。ワンちゃんが二匹、並んで歩いてくよ。可愛いね」
「あらホント。チワワにシェパードなんて、面白い組み合わせだね。どちらも首輪をしてないようだけど…あんな野良犬、珍しいね」
4/3/2025, 9:58:50 PM