らむね

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私もあなたも誰も彼も、可能性の中で生きている。街は数多の人々の可能性がすれ違う場所だ。

私が小石に躓いて転ぶ可能性。あの角で財布を落とす可能性。道に迷って人に尋ねる可能性。
可能性が背後霊みたいに私の周りをついて回って、私が行動を起こすたび、一歩進むたびに新たな可能性が生まれては消えていく。
街へ行って人とすれ違えば可能性が影響しあい、人の数だけ可能性の生滅は活発になる。

ここで2030年2月の新宿を覗いてみましょう。そこには私があの人にぶつかる可能性と、あの人が私にぶつかられる可能性。ぴったり交わって私とあの人がぶつかるという事実になれば、私とあの人の間に「道でぶつかった人」という関係性ができる。これまで人混みという大きな概念の一部だったあの人が途端に特定の意味を持ちました。 

ぶつかったという事実は消えないから、私にとってあの人は一生「2030年2月1日19時28分に新宿の交差点でぶつかった人」という関係性の人です。その座は誰にも取って代わられることはありません。おめでとう、私とあの人の出会いに乾杯!

たった一度きり出会った誰か、一生出会わないどこかの誰か、そういう関係性がたくさん生まれては忘れ去られ、交差していく。だから交差点ってあんなにロマンチックなんだね。

『街へ』

1/28/2024, 3:46:49 PM