私にはわからない。人を好きになることも、嫌いになることも、全部わからないの。
「あなたの父親はね」
いつもより語気を強めてまくしたてるのは母と祖父母。
それぞれからそれぞれの言葉で悪いところを並べたて、良いところなど存在しないと言いきっている。
その手に握られたリードの先に言い聞かせることが趣味なのだろう。毎日よく飽きずに続けている。
「お前の母親はな」
酒が入るにつれ大きくなる声で過去と理想を語るのは父。
過去を誇張して嘘と冗談を混ぜて語ったあと、これからの生活に頭を抱えて理想で包むのを何度も繰り返し「離婚だ」とお決まりの呪文を唱える。
リードでつながれた姿から目をそらして理想を着せることにこだわっているのだろう。飽きたら存在すら忘れて酒に浸っている。
私はそれをずっとみていた。リードの先で自主的に首輪をつけて座り込む姿をずっとみていた。
静かに笑って、ときに反抗したりして酷く叱られるのを他人事のように受け入れる姿をね、ずっとずっと隣でみていた。バカだなとか、余計なことをとか。そんな風に考えながらみていたら、気づいた。目の前にいる家族なんてみていなかった。
視線の先を追う。家族の後ろに広がる空がその目に映ってほんのりと青く染まっているのだ。
「なんだ、意外と強かじゃないか」
そうやって自身を守り、限界まで利用する気概に感心するよ。傷だらけの私を切り離して笑い続けるから、てっきり捨てられたのかと思ったよ。よかった。
もしここから逃げ出すのなら私も連れていってね。
【題:どこまでも続く青い空】
10/23/2023, 10:49:40 AM