町がそわそわしている。
誰も気がついていないが、私にはわかる。
なんだか幸せなことを予感して、浮き足だっているのだ。
繁華街の中央も、
車の行き交う道路も、
人が少ない平日の公園も、
どこもかしこもそわそわしている。
原因はわかっている、遠くから聞こえてくる鐘の音だ。
遠い遠い、とても遠くの町から響いてくる鐘の音を聞きつけて、町が喜んでいるのだ。
その音が聞こえてくるのは一年に一度、一晩だけ。
夜空を駆けてやってくるその鐘が待ち遠しくて、いつもは静かに耳を澄ませている町。
しかき、ひとたびその音が聞こえてきたら、もう落ち着いてはいられない。
そわそわし始め、そんな空気が住人にも伝播する。
あの鐘の音には、それだけの力があるのだ。
『遠い鐘の音』
12/13/2025, 11:54:58 AM