「完全な僕には価値があります。
多くの人が僕の力を求めます。
とても嬉しいことです。
僕の力は有限です。
一度でも使えば、もうあなた以外の誰も僕を必要としてくれません。
そして、使えば使うほど、身を削り、汚れ、いずれは力尽きることになるでしょう。
けれど、僕を必要とするただ1人のあなたが僕を使い続けてくれなければ、ただ無為に死ぬこととなります。
一度でも僕の力を使えば、僕は不完全な僕となるのです。
恨みはしません。
必要とされるのは本望です。
ただ、一度使うなら、この身朽ちるまで必要としていただけたなら。
あなたにほかに望むことはありません。
……いえ。たとえ、あなたが使い続けてくれなかったとしても。
恨み言など言いません。
僕はあなたが使ってくれる次の日を黙して待つのみです。」
これが、ある朝、机の上のノートに書かれていたことだ。
普段は書かれているものを消していく彼が、唯一書いたこと。
私が消しゴムの文字を見たのは後にも先にもこの時ばかりだった。
8/31/2023, 11:11:33 AM