せつか

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家から歩いて行ける距離に神社があった。
お社の横にブランコと滑り台と鉄棒があって、子供の頃はそこでよく遊んでいた。

ブランコは近所の子供達に人気で、いつも順番待ち。やっと乗れたと思ったら隣にいわゆるガキ大将タイプの男の子が乗って、そそくさと降りて逃げたりもした。
その頃流行っていたアイドルの歌を歌いながらどっちが大きく漕げるか競走したり、「いっせーのーせっ!」で靴を飛ばしてどっちが遠くまで飛ばせるか競走したり。たまに一人で、ひたすら無心に漕ぎ続けたこともあった。
夕方、帰る頃には両手にブランコの鎖のサビがいっぱい付いて、その鉄臭い匂いに笑いながら家路を急いだ。

今、その神社には粗末な木のベンチ以外何も無い。
ブランコも、滑り台も、鉄棒も無くなり、手水舎の水も止まってしまった。
管理が大変だとか、維持費が掛かるとか、そもそも子供がいなくなったからとか、多分そんな理由だろう。ブランコの横に生えていた大きな樹も、いつの間にか伐採されていた。

もうブランコから落ちて怪我をすることも、錆びた鉄の匂いに顔をしかめることも、突如目の前に出てきた虫に悲鳴をあげることも無い。安全で、清潔で、静かな神社は、でもどこか、居心地が悪くなったような気がする。大人になった私の足はすっかり神社から遠のいて、ふらりと立ち寄ることも無くなった。

この神社の神様は、静まり返った境内と神域に、誰もいないベンチに何を思うのだろう?


END


「ブランコ」

2/1/2024, 4:06:20 PM