2番ホームにて
「絶対帰ってくるから。」
君はそう言って、私の手を握った。
電車が出発するまであと2分。
君は今日、東京へ旅立つ。
春からデザイナーとして働くらしい。内定のメールを一緒に開いたあの日から、私はこの日を心のどこかで意識しながら過ごしていた。
ぎゅっと握る力を強めて、君は言う。
「りっちゃんがいないと、私、不安だなぁ。」
「大丈夫だよ。」
本当に君なら、大丈夫。私と違って、明るく社交的で、夢に向かってまっすぐ頑張っていて。
それでいて、軽薄で情に薄い。
「本当に絶対に帰るから!」
その言葉に頷くけれど、私は知っている。
きっと君は帰ってはこない。
これまで私たちが友達でいられたのは、ずっと狭い世界の中にいたから。
そこから飛び立てる君は、新しい苦楽に夢中になって、田舎と一緒に私のことも忘れてしまうのだろう。
電車の発車を告げるアナウンスが響く。
無機質なブザーと共にゆっくりと扉が閉じて、彼女の手も中に吸い込まれていく。
お互いに涙なんて流していなかった。窓ガラス越しに微笑み合う。
そして、彼女の笑顔がゆっくりと横に流れていった。
よくある物語みたいに電車を追いかけたりはしない。
これから帰って、地元の大学への入学準備をしなければならないのだ。
ガタン、ゴトンと音を立てながら、電車が小さくなっていくのを目だけで見送る。
大好きで、憎らしい私の自慢の親友。
君よ、どこまでも行ってしまえ。
10/13/2025, 5:32:16 AM