フグ田ナマガツオ

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魔導書を読むのは、時間がかかる。
けれども、読む度に新しい発見があって、今まで知らなかった世界を知れる気がして、楽しかった。

とはいえ、その実践に全く興味はなかったので、覚えた魔法を使うことは一度もなく、また魔導書を読んでいることは誰にも知られないようにしていた。

だから、魔王討伐のパーティに加わるよう要請がきた時は、誰もが驚きを隠さなかったし、一番驚いていたのは私だった。

どうやら人探しの魔法具に、一番多くの魔法を使える者を探させたところ、私が該当したらしいのだが、どうにも納得がいかない。

「ちゃんと戦闘訓練を受けているものが行くべきなのではありませんか?」

不満を隠さず私が問うと、10代目となる勇者は思案顔を見せた。

「魔王討伐への道のりは過酷と聞いています。そんなところに私のような貧弱な女がついて行ったところで足でまといにしかなりません。きっと途中で殺されて終わりです」

一気に捲し立てるも、形勢が動いた様子はなく、勇者は眉根を寄せたままこちらを見ている。
鋭い眼光を突きつけられて、少し怯む。
けれど、ここで引く訳にはいかない。
この交渉には、私の命が懸かっている。

「そもそもどうして私なんですか、私は魔法に詳しいだけで一度も使ったことはありません。ただ、知識があるだけです。強い魔法使いなんて、いくらでもいるでしょう。私は!適任じゃ!ないと思います!」

パシンと机を両手で叩いて熱弁を振るう。
勇者は暫く黙っていたが、やがて、なるほど、と小さく呟いた。
もしかして分かってもらえたのだろうか。

「どうも話が食い違っているようだね」

勇者はスっと手を差して、私に座るように促した。
その後、物々しく咳払いをすると、こちらを真っ直ぐに見た。

「色々、説明不足だったようで申し訳ない。ではあなたを魔法使いに選んだ経緯を一から説明させてもらおう」

真剣な表情が緊張感を醸し出す。

「我々のパーティが歴代最強と言われていることは知ってるな?」

頷く。

「戦士エルダーは、この国で最強の剣士だ。彼は戦士になる前、スラム街で暮らしていた。ある日、空腹が限界に達した彼は、グラディオスの群れに単身飛び込んで、瞬く間に全滅させた後、それらを全て喰らった。それ以来、王国にスカウトされるまで、彼は様々な魔物の群れに飛び込んでは、全滅させることを繰り返していたそうだ。その経験もあって、彼の戦闘センスは群を抜いている。頼もしい存在だ」

魔物より怖いんだけど。

「そして僧侶ヒルダは、死者蘇生の能力を持つこの世界において、唯一の存在だ。彼にかかれば、どんなにダメージを受けていても、一瞬で元通り。戦う前より元気になるくらいさ。元気になりすぎて、意識がぶっ飛ぶことすらあるよ」

過剰だって。

「そして、この私は。候補生を全員ボコし、勇者アカデミーを主席で卒業した天才女剣士レオナ!エルダーもこの前ぶっ倒した!」

今度はレオナが立ち上がっていた。
周りの視線が集まっていることに気づいてか、スっと座って真剣な顔に戻る。

「この通り、我々は戦闘においては最強の集団と言っていい。魔王ごときをシバくのには、三人でも多いくらいだ」

「だったら尚更どうして、私を入れるんですか。三人で充分ならそのまま行ったらいいじゃないですか」

「セシル、ここからが本題だ。よく聞いてくれ、私たちは確かに戦闘においては最強だ。だが一つ、致命的な欠点がある。この欠点が故に、私たちでは決して魔王の城に辿り着けないのだ」

ごくりと唾を飲み込んで、続きを待った。
レオナは忌々しそうに唇を噛み締めると、苦しそうにぽつりと言った。

「我々は、驚くほど頭が悪いんだ」

3/13/2023, 9:30:07 AM