さよならを言う前に、夢から醒めてしまった。
やっと貴方に会えたのに、直接さよならを言えるはずだったのに。
桜の下で、ふわふわと靡く髪に隠された顔があまりにも美しくて、髪と同じように風にぺらぺらと捲られてく本に触れている手があまりにも白く綺麗だったから、ただ見惚れるばかりだった。
あまりにも貴方が優しい目で本を読むから、優しい手で本を持つから、私は頭がどうかしてしまったかのようにただただ、本になりたいと願ってしまうばかりだった。
遠い昔、桜の木の下は恐れられていた、とどこかの本で読んだのを思い出した。
確かに、桜は美しく。そして恐ろしい。
だって桜は貴方を連れ去ってしまったから。
神様からも好かれるような貴方は、神様に見つかる前よりも早く桜に見つかってしまったようで。
気付いた時には跡形も無く消えてしまっていた。
もし、神様に先に見付けられていたら、きっと在るべき形でさよならを告げられたのに。
桜は、多分きっと、さよならの仕方を知らないのだと思う。
貴方の葬式が出来ていたら、しっかりとさよならを伝えられていたら、私はこんなにも貴方に取り憑かれたかのように思い出さなくてすんだのかもしれない。
だけど、突然桜と共に消えたから、まださよならを言わなければ、貴方が居なくなったことを認めなければ、毎朝自分を騙し続ければ、また会えるんじゃないかって期待してしまう。
夢で会った貴方は、いつもと変わらなかった。
騙し続けた中で見た貴方と変わらなかったから、苦しくて泣きそうで息と共にさよならを吐き出そうとした。
そしたら貴方が私を、本を読んでいたような優しい目で私を見るから、美しさに息を止められてしまった。
そうだった、貴方は桜によく似ているのだった。春のような穏やかさと共に、残酷さも持ち合わせた人なのだから、私がさよならを吐き出さないようにするのなんて、簡単なのだろう。
恐ろしくて、それでも何だか可笑しくて、笑ってしまった。
そのまま、目を開くと貴方が居ないいつも通りの朝を迎えてしまった。
だから、今日もまた貴方に会えると、貴方は居るんだと私を騙してから伸びをした。
───────
夜の海の時と同じ人を思い浮かべてかきました。
貴方は今どこに居るんでしょうね。
また明日と言った貴方に私はまださよならを言っていないので、きっとまた会えますよね。
そう信じてます。
そういえば、この前、とある小説を読みました。会えない貴方が残したものだから、と小説を読むのが苦手な私が必死に読みました。著者が本に埋め込んだ思いを見つけるのが、難しくて、でも凄く貴方を感じれた。
私は文を作るのが苦手なのですが、綺麗に言葉を紡ぐ貴方が羨ましくて真似をしてみました。が、私に似て陰湿で卑屈で愚鈍で下手くそな文しか生まれずに悔しいです。
こんな拙い文を読んでくださり、有難う御座います。本当に。
8/20/2023, 12:13:24 PM