遺影

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太陽が消失してから3年。人工的な光源を見上げながらあの生命力に溢れた暑さを思い出した。
光源からの熱は完全制御されており、あの頃のように死を肌に感じる程の暑さはもうない。
耳をつんざく程の蝉の鳴き声はもう聞こえない。あの頃を知る人間の記憶の彼方と映画等の作品の中にあるだけだ。光源は日本全土を覆うことはできなかった。財政難と材料不足により作物を作る範囲だけだ。
その代わり家庭用の窓型スクリーンを導入している。ところもある。俺の家にはそんな高価なものはない。農業をしているのでその時浴びるし、問題は生じていない。
太陽が消失して最初の頃こそ恐ろしかったが、慣れというのはすごいものだ。
家庭用の光源がない人たちは一週間に数回サウナのように太陽を浴びれる施設に通っている。保険適用なので格安で使用することができるが、それでも痛い出費だ。
日に焼けた肌は富と健康の象徴となった。
まあ俺は「富」とは無縁だが……
早く俺の太陽を見つけたいよ。

8/6/2024, 2:48:09 PM