勿忘草(わすれなぐさ)
※前日の『ブランコ』と対になっていますのでよろしければ読んでみてください。
私はもう死んでる。死んだあの日のまま、ずっとあなたの横にいる。
私の十三回忌、似合わない喪服を着て私の両親に挨拶するあなた。それを遠くからぼーっと眺める。何も感じない体に、最近感じた自分の体の透明感。つま先があるようでない、氷が溶けるかの如く世界に同化していく感覚。
最寄りの駅まで歩いていたあなたは、不意に足を止める。目線の先には幼い頃よく遊んだ公園があった。今では遊具の色は塗り替えられ、撤去されたものもあれば新しく仲間入りしたものもある。それでもブランコだけは昔のままだった。懐かしいそれに腰かけるあなたの相向かいに座る。だが、ブランコの鳴き声はひとつだけ。それがたまらなく寂しい。
『もう、辞めてくれ。』
そう言って君は喪服を濡らしていく。
『気づいていたんだね。』
あえて生前のように笑って話かけたが、こちらの声は聞こえていない。それをいい事に私の感情が流れ出す。自分の終わりを悟って。
『あのね、私、子供の頃からずっとあなたのことが大好きだよ。ずっと、ずっと、これからもきっと。これが大人の言う《愛してる》なのかな。』
あなたの涙は止まらない。私が見たいのはそんな顔じゃないのに。
『ねえ、笑って。』
あなたの代わりに私が涙を流すから。
勿忘草:真実の愛、私を忘れない
2/2/2024, 1:27:56 PM