NoName

Open App

1つだけ


「最後に1つだけ、願いを叶えてやろう」

病室のベッドで横たわる俺に死神がそう言った。

あぁもう歳かと目を閉じても、黒いローブに鎌を持ったまさにテンプレみたいな死神が、常にそこにいる。

「こんな幻覚が見えるようになるなんて」


今までつまらない人生を送ってきた。

リスクがあれば避けて、いつも楽な道を進む。

勉強も、就職も、恋人も何もかも。

けれど、人としては平凡で、特に大したこともない幸せな人生を送ってきたんだろう。

けれど、何もかも中途半端な俺は何一つ成し遂げることができず、一生を終える。

1人で歩けやしないほど歳を取り、誰も見舞いにこないその最後には虚しさと、悔しさだけが胸に残った。


「お前は、なんでも願いを叶えてくれるのか」

「1つだけだ」

死神が、俺を見下ろす。

頭の中で何度も想定を繰り返した。

けど、もう答えは決まっていた。

「俺を────」

4/3/2024, 8:57:46 PM