我妻

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『おかえり』

 ─もし、自由に飛べる翼があったとしたらどこに行く?

 かつて君が投げかけてきた問いだ。僕は沖縄か、あるいは北海道なんて良いかもね、とありきたりな答えを返した。君はそんな僕の返答を聴いて、旅行が好きな君らしい答えだねとふわりと微笑んだ。
 じゃあ君はどこに?と訊けば、私は君のそばに行くよ、と返された。あまりにもまっすぐな答えに、言われたこちらが顔を赤くする羽目になった。

 それから数ヶ月、君は僕より先に旅立ってしまった。旅行が好きな僕でも決して追いかけられないところに、たった一人で。
 旅立つ前に君は言った。先に一人で行ってくるね、と。そんな君に、僕は笑って行ってらっしゃいが言えただろうか。きっと涙でくしゃくしゃの顔だっただろう。

 君が居なくなってから、僕は君の写真を持って北海道に行った。沖縄に行った。でも、どこに行くにも飛行機だった。僕には翼が無い。だから行く先は限られている。
 でも、君はきっと綺麗な翼をもった天使になっているだろう。その翼を羽ばたかせれば僕が飛行機に長い時間揺られて向かった北海道だって、沖縄だってひとっ飛びだろう。だから、その翼で、僕のそばに飛んできてくれないか。

 いつか、あの時に言った行ってらっしゃいに返す、おかえりを言える日が来ますように。

 ──お題:飛べない翼──

11/11/2024, 4:19:00 PM