ベッドの中でうとうとしていたら、突然チャイムが鳴った。心地良いまどろみの淵にあった意識が、急速に浮上する。
スマホを見ると、時刻は0時ぴったりだ。こんな夜中に訪ねてくる非常識な奴といえば、思い当たるのは一人しかいない。
バイトで疲れていたし、無視を決め込むことにした。もう一度ピンポーンと鳴ったが、気にせず目を閉じる。少し間をおいて、再びピンポン。ピンポン。ピピンポン。ピピンポンピンポーン。
さすがに飛び起きた。玄関まで飛んでいき、苛立ちまじりにドアを開ける。そこに立っていたのは案の定見慣れた顔だった。
「あ、やっぱり起きてた」
「起こされたんだよお前に」
俺が食い気味に言うと、男はにこやかに「ごめんごめん」と言った。悪びれている気配はまったくない。
「何しに来た?」
「祝いに来た」
「は?」
「誕生日」
おめでとう、と満面の笑みを向けてくるのが不気味だった。この男とは10年来の腐れ縁ではあるけれど、毎年の誕生日を祝い合ったりしない。それがいったいどういう風の吹きまわしだ。
「急になに、誕生日って」
「いやあ、記念すべきハタチの誕生日だし、せっかくなら一番に祝いたいと思って」
「なんだそれ。気持ち悪」
「酒買ってきたからさ、家上げてよ」
言いながらコンビニ袋を突き出してくる。しぶしぶ受け取って中を見ると、缶ビール数本と、カップのアイスがふたつ入っている。
「あ、それ期間限定の味。おまえ好きそうだなーと思って買ってきたやつ」
「…………」
「一緒に食べよ。そんで朝まで楽しく」
「お前、彼女に追い出されただろ」
「………………」
図星を突かれたようで、眼前の男はフリーズした。ようやく点と点が繋がって納得する。
こいつは彼女と同棲している。おおかた喧嘩でもして追い出されたから、ほとぼりが冷めるまで誕生日を建前にして、俺の家に居座るつもりなんだろう。
「一番に祝いたいとか、よく言えたな」
「いやそれは本心。本心だから泊めて」
「嘘つけよ」
「なあ、俺たち親友だろ? お前は親友をこの寒空の下に放り出すのか?」
わざとらしい上目遣いでこちらを見てくる。1ミリもかわいくない。
「ピスタチオ味はお前にあげるから。まじで頼む」
「片方は食おうとしてんじゃねえよ」
「わかった。両方あげるから今日だけ泊めて」
「…………」
必死すぎて、もはや哀れに思えてきた。
それにしても小賢しい男だ。俺がピスタチオ味のスイーツに目がないことを知ったうえで、この交渉を持ちかけてきている。
俺は盛大にため息をついてから、仕方なく「今日だけな」と言った。幼馴染はあからさまに表情を明るくして、さっそく玄関に上がり込んでくる。
「さすが親友! 20歳おめでとう!」
「とってつけたみたいに言うな」
「これからもよろしくな親友!」
「俺はよろしくしたくない」
とか言いながら、なんだかんだでこの男とこの年までよろしくやり続けている俺も俺だ。
とはいえ、ピスタチオに免じて、とりあえず今日のところは大人しく祝われてやることにした。
【テーマ:20歳】
1/10/2026, 2:02:23 PM