ぬるい炭酸と無口な君
「あっま。ぜんぜんシュワシュワしないー」
オールで遊び倒して、朝だ。
「自販機はキンキンに冷えてなんぼデショ!?ぬるいの出てくるとか詐欺すぎ。マジやばくね?」
きゅるんとした真ん丸お目目さんの手乗り猫ぬいに話すオレの方が、マジやばかもしれんけど。
「キミさー、ご主人様にそっくりすぎな。ぜんっぜんお喋りしてくんねー。見つめ合うと素直になれない感じ?」
あと、5分だ。
始発の君。
先週、コイツを落とした女の子。
ツヤサラロングの黒髪、猛暑予感する朝でも、首とつく部位を全て隠した花柄ワンピースを着た、ザ清楚!のあの子。
一目惚れってやつ。
しちゃってから、結構経つ。
オールして時間合わせて、今日も待ってるんだけど。
「なー、ご主人様って何がすき?チョコミント?よりもアナ…ッ」
カツンと。
ヒールの音が隣から。
なんか、いい匂いもして。
恐る恐る見れば、あの子が立っていた。
目が、合う。
何も言わず、視線が手乗りぬいを見て、また俺に戻る。
「お!お疲れっす!サイダー飲みます?」
こころのじゅんび!
できてなかった!!
ああでも、無表情しか見たことなかったのに、ちょびっとだけ目を丸くして驚いてるっぽいの、すごくカワイイ。
手のひらズイッと出してくるから、なまぬるサイダーを渡してしまった。
綺麗なネイルの指さきが、キャップを開ける。
カシュ!の音すらしないしないそれを、彼女はためらいもなく口元に運ぶ。
つやつや、ぷっくりした唇が、開いて。
「!?」
飲むかと思いきや、現れた舌が。
レロリと舐める。
ごつめの舌ピアスが飲み口に当たり、カツンと鳴った。
無表情が笑んでいる。
凄く綺麗で。
凄くこわい。
こわいけど、もう。
8/4/2025, 9:12:43 AM