ゆきやなぎ

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【フユコの歩く理由はフユコにもわからない】

ただ歩く、
ただただ、ひたすらに、歩いています。

歩く理由はあったような気がするけれど、忘れてしまいました。

思い出そうと考えるのもなんだかちょっとねぇ...

ただ、立ち止まってはいけないような気だけはして、夕日に急かされながら、ただただ歩いています。

「フユコおばあちゃん!
 どこ行くの?
 みんな探してるよ!」
息を切らせて走ってきたセーラー服のかわいいお嬢さんから声をかけられました。

(はて?どなたかしら?おばあちゃんって?)

でも、よく見たら、このお嬢さんには私のよく知る誰かの面影があるような気がするのですが、果たしてそれは誰だったのか....?

「おばあちゃん
 帰ろうーよー
 お母さん心配しているよー」
私は腕を掴まれお嬢さんに懇願されました。

(お母さん?あぁそうだ!
娘のハルを迎えに行く途中だったんだわ!)

「あのね、ハルの小学校がもうすぐ終わるから、
 迎えにいかなきゃ」

「だーかーらぁ〜
 そのハルがあたしのお母さんなんだってー
 お願いだからもう帰ろうよー」
とお嬢さんは必死に言うけれど
何だか言っていることがよくわかりません。

...なので、また歩き始めます。

「おばあちゃん!
 おばあちゃん!
 お願いだからっ!
 待って!!
 待って!!!」
お嬢さんにすがるようにまた引き止められていると....

「お母さん!!」

今度は覚えのある声がしました。
振り返ると血相を変えた妹のアキコが居ました。

「お母さんもう帰りましょう
 ハルならもう帰ってきていますよ」

「あらそうなの?」

(あれっ?ハルって誰だっけ?
私はどうしていたのかしら?)

血相を変えて走ってきたくせに、平気なフリをするアキコに会話の調子を合わせたものの、よくわからなくなって.....

「何だか疲れたわ」

ぽつんと呟くと、

「さぁ、家に帰りましょう」

妹のアキコに手を取られ、また歩き出しました。
「家」とやらに帰るために。

道中、セーラー服のかわいいお嬢さんは娘のハルの子供で、私、フユコの孫のナツだと聞かされたけれど、もう何が何やら...

とにかく疲れました。

あぁ、でも家に着いたら娘にご飯を作らなければ
きっとお腹を空かせて待っているだろうに__

.......

さっきまでフユコを急かしていた夕日は沈み始め
夏の終わりを告げる蝉が鳴いています。
ずっとずっと前にも、
こんな風に家族で夏の夕暮れを歩いたことを
フユコが少しでも思い出せたらと
降り注ぐように鳴いています。

#シロクマ文芸部
「ただ歩く」から始まる小説・詩歌

8/20/2023, 2:56:32 AM