沁み圖書房

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眠れないほど。

冬の夜はなんとなく長く感じる。

冬になると日が短くなるからと小学生でも知っている理屈を、大人になった証拠かな、なんて自分のことを背伸びして俯瞰してみる。
そして、大人になるほど眠れない夜というものが増えていく。
自分では気づかないほどに、小匙1杯の砂糖よりも少しの夜が、こんばんわと言って私に挨拶をしに来るのだ。

彼らはとても多彩で個性的で、普段気にかけない底にある感情(ちょっとした寂しさとか、心細さとか、後悔とか、嬉しかったことを)が仕舞ってある箪笥をの引き出しを、
「今日はここを開けて、空気の入れ替えをしますね」と勝手に引っ張り出してくる。私の底にある感情だけれど、私の知らない絵柄をした扉を「開けて開けて」と急かしてくる。

その扉の先では、眠れないほどさらさらと流れる黄色い時間を過ごす事もあれば、布団3枚掛けの中に包まった時のように重く苦しい、群青色をした時間を過ごす事もある。

なんで勝手にその引き出し開けるの、と文句を言いたくなる。
でもその引き出しは、ずっと横目で、あるなぁと思いながら存在している。自分からは永遠に開けない引き出し。
中身の感情はきっと悲しんでいるだろう。本来だったら自分で開けて、元気だった?と会話をして欲しいはずだから。

だから怒りたいけれど、怒れない。私の代わりに小匙1杯よりも少ない、眠れない時の夜がタイミングを作ってくれているからだ。開けるタイミングを見失った気持ちと会話をするほんの少しの機会を、届けに来てくれている。

今くらい向き合おうかな、と思わせてくれる。向き合う間、夜はそっと背中越しに温かさを伝えてくれている。
だから人は、眠れないほど、自分の気持ちに向き合えるのではないだろうか。

眠れないほど、何かを思う、そんな日は誰にでも訪れる。
お節介な彼らと眠れないほど語り合うのも、大人になった証拠かな。

12/5/2023, 11:12:46 AM