#6『放課後』
今日はバイトの日。ドアを開ければカランと鈴が鳴り、中は暖色のライトが所々についていて仄明るい。マスターに挨拶し、ボサノバのレコードを聞きながらエプロンを付ける。今日のお客様は常連客の5人。
「お嬢ちゃん、ホットレモネードと適当になんか作ってくれー」
「私はコーヒーとパウンドケーキをお願い」
「はーい」
ケーキの上にはホイップクリームを。器具を温めコーヒー粉に染み込ませるようにお湯を注ぎ、蒸らし、ドリップする。だいぶうまく淹れられるようになったと思う。予め砂糖と蜂蜜で漬けておいたスライスレモンをカップに入れレモン汁とお湯を注げばホットレモンの完成だ。
おじ様とおば様が私の作る様子を楽しそうに見られていて、なんだか口角が上がる。
薄切りのトーストにクリームチーズと無花果をしき、胡椒を振りかけ蜂蜜を垂らせば、本日のオリジナルメニューです。どう、美味しいでしょ?
高校生の放課後といえば、部活に励んだり、寄り道して買い食いしたり、ゲーセンに行ったり。でも、私はこのジャズ喫茶が好きだ。一曲を共有しながら各自が自由にのんびりと過ごす、まさに至福の時間。
「お嬢ちゃん、一曲歌っておくれよ」
洗ったコップを拭きながら心の内でニヤリ。店内の奥に目をやればトランペットもドラムも、私を待っている。ピアニストの手招きでステージに上りマイクの前に立つ。こんな放課後、素敵でしょ?
♪The Song Is You
10/12/2023, 11:12:52 AM